版画について
■版画の買い方
版画の買い方は難しくありません。自分の気に入った作品を求めればよいと思います。作家の名前や保存状態、サインの有無など様々な条件によって価格は異なります。しかし、版画は美術品ではありますが、楽しむものだと思います。資産価値などを考えず、好きな作品を飾って楽しんでください。
とはいうものの、買う際には価格が気になると思います。
特に値段を左右するのが、オリジナル作品か否かという点です。オリジナル作品の場合は多少日焼けなどがあっても一定の価値がありますが、作家の死後に制作されたエスタンプ(複製版画)は、飾って楽しむ分には十分なものの、経年の劣化が進むと全くの無価値となるものがほとんどであると思います。
保存状態も価格に大きな影響を及ぼします。日焼け、シミなどは価格低下の要因となります。
版画は複数存在することから、全く同じ作品が店によって価格が異なることが多々あります。一般にデパートは信頼性が高いですが、価格は画廊に比べて若干高いことがあります。
■オリジナル作品とは
オリジナル版画の定義は難しいです。
厳密な意味でのオリジナル版画とは、作家が自分で下絵を描き、自分で版を作り、自分で刷ったものです。ただ、多くのオリジナル作品は、摺りを摺師に任せているケースが多くみられます。シャルル・ソルリエは、シャガールやビュッフェの作品の摺師として知られています。
版画家の版画はほとんどがオリジナルですが、日本の洋画家や日本画家の版画作品には、作家の監修のもとに工房で制作され、出来上がったものに「エディションナンバー」と作家の「直筆のサイン」を施したものが多く、それらもオリジナルとみなされています。
他方、「エディションナンバー」と作家の「直筆のサイン」がないものにもオリジナル作品があります。シャガール、ビュッフェ、ミロなどの海外作家の作品には、オリジナルでありながら、「エディションナンバー」も「サイン」もないものが多数あります。
オリジナルか否かを見分ける資料として「カタログレゾネ」があります。
高額ですが、生涯に制作したオリジナル作品が網羅されていますので、有用な資料です。当店では、シャガール、ビュッフェ、ミロのリトグラフレゾネやローランサンの版画レゾネを保有・活用しています。
サインについては、20世紀の中ごろから一般化しました。それ以前の画家、例えばミレー、コロー、ルノワール、ドガなどの「直筆のサイン」は見たことがありません。
■エスタンプ(複製版画)について
エスタンプ版画でも、リトグラフやシルクスクリーンなどの手法で、原画に近いものを制作する場合、20版20色などを用いるのでコストがかかり、新品は10〜20万円程度で販売されています。一般の印刷物とは異なり、原画を忠実に再現していることから、見て楽しむにはこれで十分とも言えなくありません。ただ、最近見られるジークレーなどは、原画の再現度が十分とは言えない(味わいが少ない)と思っています。
■エディションナンバー(限定枚数)
エディションナンバー(限定枚数)の多くは算用数字(アラビア数字)で書かれており、71/125と書かれていれば、125枚刷られた中の71枚目という意味です。この場合、1枚目と125枚目には、何ら差はありません。ローマ数字のI、II、III・・・という数字が用いられることもあります。「I、V、X、L、C、D、M」がそれぞれ「1、5、10、50、100、500、1000」を表しています。例えば「125」は「CXXV」と書かれています。
エディションナンバー以外の記号が書かれていることもあり、それらはエディションナンバーで示された限定部数とは別のもので、実際の摺部数はエディションナンバーよりも若干(通常はエディションナンバーの5〜10%程度)多いのが普通です。なお、作家用などが販売されていることがありますが、質的には全く変わりません。
- A.P = アーティスト・プルーフ (artists proof 英)作家保存用
- E.A = エプルーブ・アルティスト(epreuve artiste 仏) 作家保存版用
- E.E = エプルーブ・エッセ(epreuve essai 仏)試し刷り
- H.C = オル・コメルス(hors commerce 仏) 非売品
- P.P = プリンターズ・プルーフ(printer's proof 英)摺師用
- T.P = トライアル・プルーフ(trial proof 英)試し刷り
■版画の保存
シート状の作品は、当店では中性紙に挟み、桐箱に入れて保存しています。しかし、一般の人は楽しむために購入されており、通常額に入れられていますので、飾って楽しんでください。ただ、注意していただきたい点があります。- 直射日光は避けてください。
これは、油絵、日本画、水彩画なども同様です。紫外線によって退色が進みます。最近の作品は多くが紫外線防止のアクリルに入っておりますが、それを過信しないでください。直射日光が当たらない場所でも、あまり明るくない場所に掛ける方が版画作品の保存には適しています。
美術館の版画展に行くと、通常の絵画展に比べて照明が暗くなっていることにお気づきと思います。版画を保護するためです。一般の家庭でも、3か月程度掛けて楽しんだら、9か月くらい箱に入れて版画を休ませてください(休ませている間も、湿度の低い日に取り出して、換気をしていただくことが望ましいです)。 - 湿気に注意してください。
日本は多湿の国です。段ボール箱に入れたまま保存していると、段ボールは以外と湿気を吸い取るもので、箱の中の湿度が高まってしまいます。年に数回は、よく晴れた日(湿度の低い日)に額を箱から出して、通気をよくしてください。
掛けて楽しんでいる際にも、梅雨の時期などは、エアコンのドライを使っていただくと作品保護によいと思います。 - 熱に注意してください。
版画は紙に刷られています。油絵、日本画、水彩画なども同様ですが、額の下にストーブを置くと、絵画類を痛める原因となります。絵の具が剥がれたり、亀裂が入ったりする可能性があります。
以上の点に気を付けていただければ、版画類を長く楽しむことができ、作品を次の世代(子供たちや、他の愛好家など)へと引き継いでいくことができると思います。